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名古屋地方裁判所 昭和52年(ワ)3122号 判決 1983年9月30日

原告

近藤進次

原告

近藤まさ子

右両名訴訟代理人

野田弘明

松永辰男

被告

医療法人神谷病院

右代表者理事

神谷八郎右衛門

右訴訟代理人

後藤昭樹

太田博之

立岡亘

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一(当事者間に争いのない事実)

請求原因1の事実並びに被告と信義との間で、昭和四九年一二月三〇日、本件契約が締結され、同日、同契約の義務の履行として本件手術が実施されたことはいずれも当事者間に争いがない。

二(信義の症状)

<証拠>を綜合すれば、次の事実が認められ<る。>

1  信義は、昭和四九年一二月二六日ころ、発熱が続いたため風邪を引いたものと疑い、同日及び同月二八日、近所の河合医院で診察治療を受けたが、発熱に改善が見られず、また、尿道膜様部周囲に痛みがあつたことから、同医院から信義の発熱は同部位の膿瘍に原因があるのではないかとして、被告病院で更に診察を受けるように勧められた。

2  その後も信義の発熱は続き、同月三〇日午前八時ころの体温は三八度九分であつた。そこで、信義は、同日午前、被告病院を訪れ、院長及び浩三医師の診察を受けたところ、体温は三七度五分であり、尿検査の結果は尿蛋白が陽性(+)であり、尿道膜様部周囲には圧痛が著明で発赤及び腫脹を伴い波動感を感ずる炎症のあることがそれぞれ認められた。そこで、同医師らは、右部位に試験穿刺を行なつたところ、注射器に約四ccの膿汁が吸引されたことから、信義の疾患は尿道周囲炎、尿道周囲膿瘍または肛門周囲膿瘍である疑いがあるものと診断し、信義の承諾を得たうえ、浩三医師が本件手術を実施した結果、右膿汁が一〇ないし二〇cc排出された。

排出された膿汁には血液は殆んど混入しておらず、また、膿汁が排出された後の膿瘍腔は肛門に向つてかなり広い範囲で形成されていたが、肛門または直腸への連絡はなかつた。浩三医師は、本件手術部位を消毒した後、ガーゼ・ドレナージを施し、抗生物質などの投与を行なつて、信義を帰宅させた。

3  信義は、帰宅後、本件手術部位から出血し、同部位に挿入されたガーゼの上にあてられていたタオルが血液及び滲出液でじくじくの状態となり、これを二度も交換する状態であつたため、翌一二月三一日、再び院長の診察を受けたところ、本件手術による切開創は若干の出血が認められるものの一般の切開創と特に変つた点は認められず、また、膿瘍腔内に挿入されたガーゼ及び信義の全身状態にも異常は認められなかつた。そこで、院長は、信義に対してガーゼの全部交換、抗生物質及び止血剤の投与を行なつて同人を帰宅させたが、その後、信義の本件手術部位からの出血は止つた。

4  翌昭和五〇年一月一日に至り、信義は朝から食欲不振及び悪寒を訴えて発熱があり、同日夜にはその胸部、手部及び足部などに発疹が現われ、翌一月二日には右発疹は消失したものの、その左下眼瞼部から左耳にかけて皮下溢血が現われ、眼球結膜も出血し、発熱及び食欲不振も続いたことから、翌三日、被告病院を訪ね、浩三医師に対して「目のまわりが赤くなつた。」「夜目の下のところが少し青くなつた。」旨を訴えてその診察を求めた。同医師が信義を診察したところ、体温は三七度四分であり、両眼球結膜に出血、左下眼瞼部に皮下溢血、下口唇粘膜部にアフタ性出血が、左肘部に疼痛がそれぞれ認められ、更に臀部などを視診したところ、同部の筋肉注射をした部位に直径約一セシチメートルの、右肘部の静脈注射をした部位に長径約一センチメートル及び短径約0.5セソチメートルの各円型の皮下溢血が認められたため、同医師は、信義が何らかの出血性の血液疾患に罹患しているのではないかと疑い、デューク法による出血時間測定の検査を行なつたところ、一〇分以上の著明な出血時間延長が認められ、また、ルンベル・リーデ・テストを行なつたところ、強陽性の反応が示された。

しかし血圧測定の結果は一三二mm/Hgないし六〇mm/Hgで正常であり、脈拍も正常、会話及び動作にも異常はなく、腹部は平坦かつ軟で脾臓及び肝臓には触れず、胸部にも異常はなく、顔色などにも特に問題はなく、全身状態は比較的良好であつた。

5  信義は、翌四日にはやや気分も回復したが、発熱及び食欲不振が改善されなかつたため、被告病院を訪れ、大野医師が信義を診察したところ、同人は衰弱した状態ではなかつたが、目の下のあたりに「くま」のような溢血が認められ、他に外傷などが認められなかつたことから、同医師は、信義がI・T・Pなどの血液疾患に罹患しているのではないかとの疑いを持ち、「次回、血小板数などの検査をする。」旨を伝え、抗生物質などの投与を行なつて同人を帰宅させた。

6  信義は、翌五日も食欲不振が続いたほか、体温は三八度八分で、全身の衰弱が著しくなり、翌一月六日午前六時ころから同日午前一〇時までの間、四、五回にわたり黄色胆汁様の液体を嘔吐し、体温も三八度五分で発熱が続いたことから、同日午前一〇時ころ、被告病院に入院した。

その際、浩三医師が信義を診察したところ、同人の本件手術部位は順調に治癒の経過にあつた。また、この時、同人の血小板数の測定が行なわれ、その結果、血小板数は一mm3あたり五万個であつた(なお、この数値は診療録には記載がないが、同日夜来院した臨床検査センターの技師が検査していること、原告進次がそのころ、被告病院で病院関係者から「五万個」という数字を聞いていることからこのように認められる。)。

7  その後、信義は、同日午後、激しい嘔吐をしたため、院長の診察を受けたが、本件手術部位のガーゼ交換をした際、少量の滲出性の出血があつたものの、デューク法による出血時間測定検査の結果は五分、血液凝固時間測定検査の結果は二分から二三分、血色素ザーリー値測定検査の結果は三八パーセント、ウイントロープ法の結果はヘマトクリット値一五パーセントであつた。同日午後四時三〇分ころ、信義は、洗面器に半分程度の量の血液の混入した嘔吐をしたため、再び院長の診察を受けたが、その際の信義の血圧は一七〇mm/Hgないし九〇mm/Hg、胃液潜血反応は陽性(+)であつたことから、胃ゾソデ挿入及び点滴の処置がとられたが、下血はなかつた。

8  ところが、信義は、同日午後七時三〇分ころ、病室に同室していた他の患者と談話中突然に上肢を上げ、はばたき様のけいれんを起した後、間もなく意識を失つた。病室に急行した浩三医師が信義を診察したところ、同人は意識消失の状態にあつたため、同医師は、直ちに信義の気道及び血管を確保し、酸素吸入をして、同日午後七時五〇分ころ、同人を個室へ移し、心電図モニターを装着して集中的な蘇生術を行ない、その間、新鮮血二〇〇ccの輸血、副腎皮質ステロイドの投与もしたが、翌七日午前零時三〇分ころ死亡するに至つた。

9  なお、同日午後八時五〇分ころ、白血球数測定の検査を行なつたところ、七、〇〇〇個と測定され、出血時間測定の結果は一〇分以上で著明な延長が認められた他、本件手術日に採取された膿汁は、昭和五〇年一月七日、検査センターで検査され、その結果、同膿汁中からグラム陰性菌に属する細菌が検出された。

また、同年一月六日に採血された血液は、同日中に検査され、その結果、総ビルビリソ値は0.5mg/dlと認められた。

10  以上の経過事実のうち、以下の事実即ち、

本件手術に際し、本件病巣から膿汁が採取されたこと、その後、信義が、同月三一日、院長から診察を受けたこと、その際、止血剤が投与され、その結果、本件手術部位からの出血が止つたこと、信義が、翌五〇年一月三日、浩三医師から診察を受けたこと、その際、筋肉注射及び静脈注射の各注射部位にび漫性の出血があつたこと、同医師が出血時間の測定を行なつたところ止血時間が著明に延長していたこと、ルンベル・リーデ・テストを行なつたところ、強陽性の反応が示されたこと、同月四日、信義が大野医師から診察を受けたこと、信義が、同月六日午前一〇時三〇分ころ、被告病院に入院したこと、同日午後、洗面器に半分程度の量の血液混じりの嘔吐をしたこと、同日夜、けいれんを起こし、間もなく意識不明となり、そのまま、翌七日午前零時三〇分ころ、同病院において死亡したこと、以上の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

三(信義の死亡原因)

1  信義の直接の死因となつたのが、頭蓋内出血であることは当事者間に争いがないところ、前項判示の各事実に証人柴田進の証言及び同人の鑑定結果を併せ考えると、信義は本件手術後出血傾向が著明であつたが、それが徐々に亢進した結果、突然に脳幹部に出血をきたしたものと認められる。

2  そこで、信義の右頭蓋内出血の原因について検討する。

(一)  原告らは、これを敗血症によるものであると主張するところ、<証拠>、鑑定の結果を綜合すれば次のとおりの医学的知見が認められる。

(1) 敗血症とは、流血中から細菌などの原因微生物が検出され、一定の全身的感染症状を伴う感染症を意味する臨床的な病名であるところ、同症は、原発感染であることは少なく、大半は何らかの基礎疾患があり、敗血症を起すに足りる誘因が存在するものであつて、この誘因となる敗血病巣から原因となる微生物が持続的または間歇的に血行中に流入し、これにより重篤な全身的症状を自覚的または他覚的に発現させるものである。

右基礎疾患としては急性白血病、再生不良性貧血、顆粒球減少症(無顆粒細胞症)などのいわゆる慢性消耗性疾患があり、誘因としては、皮膚化膿巣、外傷性の化膿性創傷などがあり、特にグラム陰性桿菌が原因菌である敗血症においては、菌交代症による術後感染などがある。

(2) 敗血症の原因となる微生物としては細菌とりわけ化膿性の細菌群(連鎖球菌、ぶどう球菌など)、大腸菌などのグラム陰性桿菌が主であるが、創傷または膿瘍切開が誘因となつている場合の原因菌は主として連鎖球菌またはぶどう球菌であつて大腸菌は稀である。

(3) 敗血症の症状、検査所見は、原因微生物の種類、原発巣、宿主の状態などによつて一定していないが、一般的には次のようなものである。

(イ) 血液中から細菌などの原因微生物が検出される。

(ロ) 通常悪寒及び戦慄を伴う急激な熱上昇とりわけ弛張熱(間歇熱)がある。但し、最近では、敗血症の発症の前後に抗生物質などの投与が行なわれることが多くかかる場合には熱型が一定しない。

(ハ) 発熱に伴い、頻脈、著明な発汗、頭痛、関節痛などの症状も現われ、経過が長引く場合には急速に重病感を呈する。また、一般に血圧は降下し低血圧となる。

(ニ) 皮膚症状としては、皮下溢血、紅斑、膿胞などが見られることがあるが、出血は点状出血の形をとることが多く、紅斑はバラ疹状を呈することがあり、多形滲出性紅斑や結節性紅斑と区別し難いことも多い。

(ホ) 脾腫または肝腫を伴うこともある。また、転移巣の形成に応じて心雑音や腎障害などを出現する場合もある。

(ヘ) 白血球とりわけ多核白血球数の増加が著明で、幼若型白血球または異型リンパ球を認めることもある。但し、逆に白血球数の減少する場合もあり、特にグラム陰性桿菌が原因菌である場合には必ずしも白血球数の増加が認められるとは限らない。

(ト) 血小板の減少も著明で、出血性素因を示し、消耗性凝固障害または全身的血管内凝固症(以下、D・I・Cという)。を起すこともあり、このD・I・Cに起因して重要臓器への出血により死亡する場合もある。

(チ) 尿では熱性蛋白尿があり、場合により血尿を認めることもある。

(4) グラム陰性桿菌が原因菌である場合には細菌性ショックに陥りやすい。その症状は右(3)の各症状と同様であるが、ショックが進むと、乏尿、心不全、呼吸困難から昏酔状態となり、D・I・C、出血、脳その他全身の酸素欠乏状態で死亡する。

(二)  以上の各医学的知見及び前記各認定事実及び当事者間に争いのない事実を綜合し、柴田進の鑑定結果を参酌して信義が敗血症に罹患していたか否かにつき検討する。

(1) 信義の流血中に細菌などの敗血症の原因となる微生物が存在したことを確定すべき証拠はない。従つて、同人が敗血症に罹患していたことを認めるに足りる直接的な証拠はないことになる。

ところで、本件病巣から採取された膿汁中にグラム陰性菌に属する何らかの細菌(以下、本件病菌という。)が検出されたことは前記二9で認定のとおりであるから、本件病巣中にも同菌が存在したことが推認されるところ、他に信義の身体に敗血症の誘因となり得る病巣などが存在したことを認めるに足りる証拠はないのであるから、敗血症の原因菌として認められ得るのは本件病菌のみであることになる。そこで、仮りに信義が本件病菌を原因菌とする敗血症に罹患していたとすると、同症は血行中に原因菌が継続的または間歇的に流入することによつて惹起される感染症なのであるから、本件病菌が何らかの経路を通つて信義の血行中に流入していたことになり、この侵入経路としては、本件病巣か本件手術の切開創のいずれかであると考えられる。

(2) しかし、前記二で認定の信義の各症状のうち、本件手術日の手術部位からの多量の出血は、前記切開創を誘因とする敗血症に起因する出血ないし血小板減少などによるものとしては時期的に余りにも早過ぎ、従つて、右切開創を侵入経路とする敗血症の可能性は否定せざるをえず、また、本件病巣の発生がどの時点であるかは必らずしも明確でないが(<証拠>によると、同部位の疼痛は本件手術の四日前からあつたことが窺われる)、本件病巣の腔内の模様や、本件手術により排出された膿汁には殆んど血液が含まれていなかつたことからして、同病巣を経て本件病菌が血中へ侵入したと確定することもできないところである。

(3) 一方、信義のその余の各症状について検討すると、

(イ) 信義に発熱及び悪寒があつたことは前記二4、5、6で認定のとおりであるが、敗血症においては急激な熱上昇ないし間歇熱に随伴するものとしての悪寒が問題とされるところ、抗生物質の投与が行われているという事情もあるが、信義に急激な体温の上下があつたことを認めるに足りる証拠はなく、信義の悪寒も発熱に由来するものであることまでは推認し得るが、敗血症とは必ずしも結びつくものではない。

(ロ) 信義に眼球結膜出血、左下眼瞼皮下溢血、発疹、消化管出血、頭蓋内出血などがあつたことは前記二3ないし8で認定のとおりであるが、これらは必ずしも敗血症に固有のものではなく、後記I・T・Pの症状でもある。

(ハ) 白血球数は、敗血症の症例により必ずしも増加するとは限らないのであるが、入院日の午後における信義の血色素ザーリー値は三八パーセント、ヘマトクリット値は一五パーセント、意識消失後の同人の白血球数は七、〇〇〇個であつたことは前記二7、8で認定のとおりであり、格別これが増加していない(但し、柴田進の鑑定によると、原因菌がグラム陰性桿菌の場合はその増加は顕著でないが、逆に減少することが認められる)。いずれにしても、信義の白血球数が七、〇〇〇個であつたことは必ずしも敗血症と結びつくものではないと考えられる。

(ニ) 一月三日に信義の左肘部及び臀部の各注射部位に出血斑があつたことは前記二4で認定のとおりである。そして、証人神谷浩三の証言によれば、右各注射は昭和四九年一二月三一日以前になされたものであることが認められ、右証人の証言及び被告代表者本人尋問の結果によれば、信義の臀部に対しては本件手術日及びその翌日に、肘部に対しては本件手術日の翌日にそれぞれ注射が行なわれたことが認められるのであるが、右各注射時にそれ以前になされた注射の注射痕が存在したことを認めるに足りる証拠はないこと及び弁論の全趣旨から、右出血斑が出現した注射部位は本件手術日及びその翌日のそれを指すものと推認されるところ、この出血斑の出現が本件病菌の侵入のみによつて惹起されたものであると合理的に説明することは困難であり、また、前記二1で認定の河合医院における治療行為中に注射が含まれていたか否かは必ずしも明らかではないところ、敗血症またはI・T・Pによる出血斑の発生から消滅までの存続期間は、証拠上明らかではなく、以上によれば、一月三日に右各出血斑があつたからと言つて、信義が敗血症に羅患していたことを確定することはできない。

(4) その他、信義には食欲不振、嘔吐などの症状があつたことは前記二4ないし8で認定のとおりであるが、これのみで敗血症の罹患を推認することは困難であり、却つて、信義には次のとおりの各症状があり、これは敗血症の罹患をむしろ否定するものである。

(イ) 意識消失後に採血された信義の血液検査の結果は総ビルビリン値0.5mg/dl、尿素及び窒素は一五mg/dlであつたことは前記二9で認定のとおりであるが、<証拠>によれば、右各測定値はいずれも正常範囲内にあることが認められるから、肝機能及び腎機能には異常がなかつたことが推認される。

(ロ) 肝臓及び脾臓に触れなかつたことは前記二4で認定のとおりであるが、<証拠>によれば肝臓及び脾臓には腫脹はなかつたものと推認される。

(ハ) 信義の血圧は、一月三日には一三二mm/Hgないし六〇mm/Hg入院日の午後四時三〇分には一七〇mm/Hgないし九〇mm/Hg、意識消失以後は別表のとおりであることは前記二4ないし8で認定のとおりであつて、これに証人柴田進の証言を併せれば、信義には血圧の低下がなかつたものと認められる。

(5) 以上によれば、信義の前記各症状には敗血症の罹患を疑わせる徴候も含まれていることまでは認められるものの、そのいずれもが同症の罹患を断定せしめるものではなく、これらを綜合してもなお同症罹患の事実を推認することができず、結局原告らの敗血症が信義の頭蓋内出血の原因であるとの主張は採用することができない。

3(一)  次に、原告らの予備的主張である信義の死亡がI・T・Pによる頭蓋内出血によるものであることについては当事者間に争いがない。

(二)  また、<証拠>によれば、I・T・Pに関して次のとおり医学的知見が認められる。

(1) 血小板減少に起因する紫斑症のうち血小板減少の原因が不明な病態をI・T・Pというが、これには急性型と慢性型の二種があり、前者は、小児が約八五パーセントを占め、その症状は、二週間ないし六週間持続した後、約八〇パーセントの症例では自然寛解するものとされている。I・T・Pの有病率は、人口一〇〇万人に対して13.4人(0.0000134パーセント)であり、死亡率は、2.5ないし三パーセント(うち中枢神経系のくも膜下出血、脳出血などによる死亡率は約一パーセント)である。

(2) I・T・Pの症状は次のとおりである。

(イ) 出血症状が認められ、点状または斑状の紫斑または紫斑形成傾向が主であるが、鼻出血または血尿などが見られることもある。

(ロ) 脾臓は、触れないかまたは少し触れる程度である。

(ハ) 出血時間延長、毛細血管脆弱など血小板減少に基づく止血凝固の異常が認められる。なお、出血時間についてはデューク法による検査で四分以上が延長で病的と判定され、毛細血管抵抗についてはルンベル・リーデ・テストで()以上が脆弱と判定される。

(三)  そして、前記認定のとおり、信義は、本件手術当時すでに何らかの出血性素因を有しており、一月三日のルンベル・リーデ・テストの結果は強陽性でも毛細血管抵抗が極めて脆弱、同日のデューク法による止血時間測定の結果は一〇分以上、入院日の同測定の結果は五分でいずれも病的に異常であり、同日の血小板数測定の結果も五万個であつたのであるから、同人の血小板数は病的に減少していたものと認められ、更に、信義に、発疹、皮下出血、紅斑の出現などの症状があつたことは前記認定のとおりであるが、これらはいずれも右血小板減少によつて惹起されたものと推認され、かつ、この血小板減少の原因を断定するに足りる証拠はなく、また、信義が先天的または慢性的に皮下出血などの諸症状を呈するような病的な出血傾向を有していたことを認めるに足りる証拠はない。

(四)  以上の諸点を綜合すると、信義は、急性型のI・T・Pに罹患していた蓋然性が最も高いと認められる。

四(被告の責任)

以上の認定事実並びに当事者間に争いのない事実に基づき、原告両名の主張する被告の責任について検討する。

先ず敗血症罹患を前提とする主張については、先に判示のとおり、信義が同症であつたとは認定できないから、これを採用できない。

そこで、以下原告らのその余の主張について判断する。

1  請求原因4(三)(1)(不適切な膿瘍切開手術)の主張について

請求原因4(三)(1)の事実のうち、身体の中心線にできた膿瘍の切開には他の部位に比しより慎重を要するものであること、院長らが信義に対して合併症の有無について問診をしなかつたこと、「切るにはまだ早いが、正月にかかるので切つておこう。」と言つたことについてはいずれもこれを認めるに足りる記載はな<い。>しかし、いずれにしても、信義の死亡原因は前記三のとおりI・T・Pに起因する頭蓋内出血なのであつて、I・T・Pの発症及び死因と本件手術の実施及びその時期との間に何らかの因果関係を認めるに足りる証拠はない以上、原告らのこの点の主張は失当である。

2  請求原因4(三)(2)(即時診療応諾義務)の主張について

(一) 昭和四九年一二月三〇日時点での信義の症状は前記二3で認定のとおりであり、<証拠>によれば、信義は、本件手術後、喫茶店に寄つて休憩し、正午ころ帰宅したこと、その後、午後三時ころ、本件手術部位から出血したため、原告まさ子は、夕方になつて被告病院に架電したところ、これを受けた氏名不詳の看護婦から「今日は血が止まらないようにしてあるから出血が多いと思うが、そのうち止るから」との返答を受けたことが認められる。

しかしながら、<証拠>によれば、ガーゼ・ドレナージは、切開創を開放のままにして膿瘍腔内にガーゼを挿入留置することにより同腔内からの膿汁、血液、滲出液などの排出を容易にする術法であることからある程度の出血は当然に予想されるものであること、本件手術後、信義に対しては止血剤、抗生物質及び抗腫脹剤などが投与され、右出血及びこれに伴う合併症などに対する一応の処置がとられていたこと、浩三医師は、本件手術終了直後の段階では信義に特段血液疾患を疑わせるような症状が何もなかつたことから同人に出血性の血液疾患があることを予知できていなかつたことがそれぞれ認められ、以上の事実を前提にすれば、その後、同医師としては、信義に著しく病的または異常な出血その他通常の膿瘍切開手術の予後としては到底予想できないような特異な症状が現われたことが明らかになるなどの事情のない限り、治療後患者の家族から電話連絡があつたからといつて、即時に信義を診断すべき義務はなく、また看護婦に対して通常の程度の応対を任せていたとしても何ら応諾義務の不履行とはならないものと解されるところ、原告まさ子の前記(一)認定の電話内容が重篤をうかがわせるような特別に深刻なものであつたことを認めるに足りる証拠はなく、現に、翌三一日には院長が信義を診察し、止血剤を投与するなどの治療をしたところ信義の出血が止つたことは当事者間に争いがないのであるから、信義に血液疾患の疑いが必ずしも明確とはなつていなかつた本件手術日の段階では、被告病院医師が信義に多量の出血などがあつたことを聞いて、なお即時に信義を診察しなかつたとしても直ちに応諾義務を尽さなかつたものと認めることはできない。

(二) また、昭和五〇年一月一日以降の時点における信義の症状については前記二4で認定のとおりであり、<証拠>によれば、一月二日に信義に皮下溢血などの症状があつたことから、同原告が被告病院に架電し、応対に出た氏名不詳の看護婦に対して信義の右症状を説明したうえ、「内科の方が悪いと思うので診てもらいたい。」と話したところ、同看護婦から休診日である旨を返答されたので、「内科の先生を紹介してもらいたい。」と頼んだところ、「素人考えでそのようなことを言われても困ります。」と言つて電話を切られたことが認められる。

ところで、一般に医師は、人の生命及び健康を管理する業務である医業を独占的に担当し、特に高度の知識、経験及び技術を有するとして国からその資格を認定されているものであるから、その業務については、最善の努力を尽すべき責務を負担するものであつて、正当な理由のない限り、患者の診察応諾の要請を拒むことができず、速やかにこれに対処して診察ないし治療をすべき義務があるものと解される。しかし、このような高度の責任を負う医師といえども、一般の祝祭日または休日などの休診日あるいは診療時間終了後においてまで常に通常の診療時間帯と全く同程度の診療業務に就くべき義務を負うわけではない。けだし、そのように解しないと、医師に対し年中無休の無限定の責務を課すことになり、実際的ではないからである。従つて継続的な治療を施している入院患者または緊急の診療ないし治療を要すべき患者などからの、休日あるいは時間外における診察応諾の申込を拒むことは許されないが、継続的に外来治療をしている患者でも、医師が当該患者の身体状況を把握しており、診察申込の内容が、医学的見地からして、直ちに診療治療をするまでもないと判断できるときは、これに応じなかつたとしても、直ちに診察応諾業務を懈怠したとすることは相当でない。そして、右の理は、基本的には複数の医師を擁する被告病院にもあてはまるところ、<証拠>によれば、被告病院は、昭和五〇年一月一日から同月三日まで休診であつたことが認められ、また、毎年この間の時期は、公私の医療施設は、急患などを除き、その業務を停止するのが通例であるから、これまで認定の事実関係のもとに被告病院が一月二日に原告らからの診療要請を拒絶したからといつて、この時点における信義の全身状態が前記のとおりである限りは、右の意味で診察応諾の求めを断わることのできる正当理由があつたと認められるうえ、翌三日に浩三医師が信義の診察に応じたことは当事者間に争いがなく、同診察時における信義の全身状態も比較的良好だつたことは前記二4で認定のとおりであるから、以上の事実を綜合すれば、被告には原告ら主張の不完全履行はなかつたということができる。

3  請求原因4(三)(3)(検査義務不履行)の主張について

(一) 一月三日の信義の症状は前記二4で認定のとおりである。また、同日の診察の際、浩三医師が信義に出血性の血液疾患を疑い、問診、触診、デューク法による止血時間測定、ルンベル・リーデ・テストによる毛細血管抵抗検査を行なつたが、それ以外の検査を行なわなかつたことは当事者間に争いがなく、かつ、証人神谷浩三の証言によれば同訴外人が一月三日の時点でI・T・Pに激症例があることを知つていたことが認められる。また、一月四日の信義の症状及び同日大野医師が何らの検査もせず、「次回、血小板数などの検査をする。」旨を指示して信義を帰宅させたことは前記二5で認定のとおりである。

(二) ところで、一般に医師は、患者に罹患の疑いのある疾患について、常に可能な限りのあらゆる検査を尽さなければならないわけではなく、とりわけ一般開業医においては、患者の症状の程度、可能な検査技術の種類及び程度、他の専門的検査機関を利用することのできる可能性などの諸般の事情を斟酌したうえ、一定の臨床診断を得るべき必要性または緊急性に応じてこれに必要かつ有効な範囲内の検査または専門機関への検査依頼などを尽せば足りるものと解される。そして、<証拠>によれば、I・T・Pの臨床診断は止血時間及び毛細血管抵抗の各検査、問診などにより一応の診断が可能であるものの、その確定診断には骨髄液検査が必要であることが認められ、更に<証拠>によれば、右確定診断には、専門医がこれを行う場合であつても、昭和四九年当時の医療水準では二日ないし三日、場合によつては入院後一週間を要すること、昭和四九年暮から昭和五〇年一月三日までの間は、専門の検査センターはその業務を停止しており、同所での専門的検査は期待できなかつたことが認められ、更に、同月四日が土曜日であり、翌五日が日曜日であることは暦の上から明らかであるから、実際には、翌六日までは検査センターでの専門的な検査は期待することができなかつたものと推認されるところである。

(三)  右認定によれば、浩三医師及び大野医師は、信義に出血性の血液疾患を疑いはしたものの、一月三日及び翌四日の同人の全身状態が比較的良好で緊急に確定診断を下すべきであるような差迫つた状態ではなく、かつ、他の専門的検査機関を利用することは同月六日まで事実上不可能であつたことなどから、信義に本件のような急激な症状悪化はないであろうと判断したうえ、同月六日以降に同人の疾病の専門的検査の実施及び確定診断を持ち越したものと推認されるが、男性成人のI・T・Pの有病率及び死亡率は極めて低く、通常は自然寛解するものであることは前記三3(一)(1)で認定のとおりであり、このような一般的症状などを斟酌すれば、浩三医師らの右判断を直ちに誤りとして責めることはできず、一月三日及び翌四日当時の信義の状態を前提とすればこれも無理からぬものがあつたと考えられる。却つて、浩三医師は、止血時間測定など一般の医療機関が有効に行いうる範囲内での検査などを行ない、かつ、右各検査結果などを総合すればI・T・Pの一応の臨床診断も不可能ではない程度にまで至つたものであることが認められるのであるから、被告病院においては、検査センターの機能が停止している時期における一般医療機関として尽すべき検査義務は一応尽していたものと認められる。

以上によれば、被告病院において右一部検査を行なわなかつたことと本件結果との因果関係の点は一応措くとしても、原告らのこの点に関する主張はいずれも理由がない。

4  請求原因4(三)(4)(入院措置義務不履行)の主張について

(一)  被告が、昭和五〇年一月三日及び四日に信義を被告病院に入院させなかつたことについては当事者間に争いがないところ、一月四日に信義が大野医師に対して入院させてほしい旨を要望したことについては、原告まさ子本人尋問の結果によりこれを認めることができるが、一月三日に浩三医師に対して同旨の要望をしたことについてはこれを認めるに足りる証拠はない。

(二)  ところで、一般に、医療機関は、患者からの入院要請の有無に拘らず、入院応諾能力のある限り、患者の症状の程度及び必要かつ可能な治療の種類などを考慮したうえ、その入院の要否を決定すべきものであると解されるところ、一月三日及び四日の時点で被告病院の病床が満床であつたとの証拠はなく、その限りでは入院応諾能力があつたものと推認されるものの、前記二4、5で認定のとおり、右三日及び四日における信義の全身状態は比較的良好であつたこと、前記認定のとおり、I・T・Pの有病率とりわけ激症例率が極めて低いこと、それゆえに前記のとおり、浩三医師らが、信義に急激な病状悪化はないであろうと判断したこと、<証拠>によれば、被告病院と信義の住居とは比較的近接しており、同人が急篤の場合には直ちに入院して治療を受けることができる状態にあつたものであることが認められることなどを綜合すれば、被告に対し、同月三日及び四日に信義を入院させなかつたことについての判断が不当であると認めることはできないものと認められる。

5  請求原因4(三)(5)(ロ)(I・T・Pに対する適切な治療義務)について

(一) 一月六日に入院するまでの信義の各症状及び各検査結果はこれまでに認定してきたとおりであるが、これらの事実と証人柴田進の証言及び鑑定の結果を綜合すれば、信義は、本件手術日以前から血小板減少に起因する出血性素因を有し、本件手術を契機として身体各所からの出血が著明となり徐々に亢進していつたものであるところ、入院日の前日ないしは入院当日朝から全身状態が急激に悪化し、消化管出血などを起すなどの重篤な状態に陥つたものであることが認められる。そして、浩三医師と大野医師が三日、四日の各診察時点において、信義に血液疾患の疑いを持つていたことは前記のとおりであるが、右の各事実に前記四3で認定の事実を併せ考えれば、同月三日の段階では、担当医師において、信義の症状がI・T・Pに起因するとの疑を抱いても不合理でない状態にあつたと認められるところである。

(二)  ところで、<証拠>によれば、I・T・Pの症状は変化するものであるからその治療方法も症状に応じて選択していかなければならないが、これには次のような治療方法のあることが認められる。

(1) ステロイド投与

副腎皮質ステロイドホルモン剤を投与する治療方法であるが、その初期投与は三ないし四週間継続して行なわれることを要する。半年以上にわたる投与によつても症状の改善が認められない場合には、その効果が疑われる。また、重症で激症型のI・T・Pに対しては、八〇ないし一〇〇mg以上の多量の投与を短期間だけ試みることを要するが、一〇〇mg以上の大量投与は、逆に血小板生成を抑制し、寛解率を低下させる場合もある。

(2) 摘脾

脾臓摘出手術であるが、その適応は、臨床的に六か月を経過しても寛解に達しない場合またはステロイド投与が効を奏しない場合であることを要する。

(3) ステロイド投与以外の免疫抑制剤投与

ステロイド投与が不可能な場合または摘脾が効を奏しない場合に用いられる。

(4) 抗プラスミン剤、血管強化剤投与

血小板増多作用はないが、一時的な補助剤として投与される。

(5) 血小板輸注

血小板増多作用はないが、一時的に、補充的な目的で用いられる。通常、中枢神経系出血の合併時や摘脾の際の予防に用いられる。

(三) 以上によれば、I・T・Pの治療には、まずステロイド投与が比較的長期間にわたつて実施されることを要するものと認められるところ、一月三日及び翌四日の段階で被告が確定診断を同月六日以降に持ち越したことに義務違反のないこと前記四3のとおりであるから、同認定と同様の理由で、右四日以前に被告病院が信義に対してステロイド投与を実施しなかつたからといつて、直ちにその判断を不当であると認めることはできない。

(四)  そして、入院日においては、信義の状態はさらに重篤化しつつあり、かつ入院(午前一〇時ころ)直後より血小板数測定検査(もつとも、この検査結果が判明したのは同日夜になつてからであることは先に認定のとおりである)を含む諸検査も行なわれ、その結果も判明してきたことから被告病院の医師においても、当日の夕刻には、現実の可能性としてI・T・Pによる激症事態、即ち頭蓋内出血等の発生を予見することができたといわねばならない。

(五)  しかるところ、<証拠>によると、I・T・Pの確定診断は血小板の測定だけでは足りず、終局的には骨髄液検査を要するところであり、しかも、この検査は患者に相当の肉体的負担を与えるものであること、I・T・Pの治療法の一つであるステロイドの大量投与についても、ステロイドが消化管出血を誘発し、感染症の防禦力を低下させるなどの副作用の強い薬品であることからして、療法の選択については確定診断を経てからにする方がより望ましいと認められるところであり(なお、摘脾及び免疫抑制剤投与は、いずれもこの時点では適応ではなく、とりわけ摘脾についてはその手術自体が相当の身体侵襲を伴なうからその実施は慎重を期すべきものである)、加えて、ステロイドの投与にあつても、即効的に著効があるというものではなく、ある程度継続して投与する必要があり、それでも全く効果の挙がらない場合もあることが認められる。これらの諸点からすると、被告病院医師が激症事態の発生を具体的可能性として予見できるようになつた時点においては、も早ステロイド投与、血小板輸血の措置を採つても、この事態の発生を回避し、不幸な死への転帰を免れることは困難であつたというべく、現に、信義の意識喪失後ではあるが、先に認定のとおり同人に対しステロイドが投与され、新鮮血の輸血も行なわれたが全く効果をみることができなかつたところである。

(六) <証拠>によれば、院長は信義の疾病の診断及び治療方法の決定を入院日の翌日である七日以降に持ち越すことにしたことが認められ、結局信義の症状が重篤になり、遂に意識を失なうまでの間にはこれといつたI・T・Pに対する治療はされなかつたのであるから、これを結果的に見れば、その対応が緩慢であつたかの感もないではない。しかし、これを前記(一)ないし(五)の諸事実に照して考えると、本件においては、有病率も死亡率も低い、というよりは、罹病しても大方は自然寛解するとされている急性型I・T・Pが医療機関や検査機関が殆んど休んでいるいわゆる正月休みの間に顕在化し、その後急激に症状が悪化して一気に最悪の結果に至つたものであつて、被告に原告主張の債務不履行があつたとはにわかに断定できないところである。

6  請求原因4(三)(6)(転医義務)について

(一)  被告が信義を転医させなかつたことについては当事者間に争いがない。

(二)  しかしながら、<証拠>、鑑定の結果によれば、昭和四九年一二月三一日から翌五〇年一月五日ころまでの間は、公私の病院はいずれも休診となり、通常の機能を有していなかつたものと認められることから、仮りにこの期間中に信義を転医させたとしても直ちに被告病院以上に有効適切な治療を受けることができたかどうか疑わしく、却つて、一般の医療機関も患者の症状の程度に応じて、まず自ら為し得る治療行為を行なうべきであつて、これが不可能ないし充分に行なうことができないことが明らかになつた段階で転医または転送を考慮すれば足りるものと解されるところ、信義は、その症状が次第に重篤しつつあつたことは前記二7、8で認定のとおりであり、未だ病名の確定診断もなされておらず、また、かような重大な結果の予見が可能となつたのは入院日の夕刻ころであるうえ、I・T・Pの治療方法としては、まずステロイド投与を試みるべきであることは前記四5で認定のとおりであり、かつ、被告は、ステロイド投与を実施しているようであるから、入院日の段階では、信義を転医させなかつたからといつて被告にその責任はない。

五請求原因5(不法行為)の主張について

原告らは、本件の結果発生につき、被告病院の院長及び浩三医師、大野医師に民法七〇九条の過失があつたと主張するが、これまで被告の債務不履行責任につき認定判断してきたのと同様の理由により、右医師らに原告ら主張の過失を認めることはできないから、原告らのこの点の主張は理由がない。

六(結論)

以上によれば、その余の事実について判断するまでもなく、原告らの本件請求は、いずれも理由がないからこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(宮本増 森本翅充 夏井高人)

別表<省略>

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